R2特別対応歯科研修会「質問・回答」

特別対応歯科研修会質疑応答 
(令和2
年9月6日(日)開催)


質問者①

【質問内容】

職種:歯科医師

質問内容:

この度は貴重な講演ありがとうございました。

3点質問させてください。

もしかしたら講演の中でお話があったかもしれないですが・・・

 

Q1.お子さんの中には、こちらから見て発達障害があるようだけど保護者さんからはそういう話をされない場合があると思います。

 その場合は、特にこちらから「発達障害があるかもしれないから受診してみては」という提案はされないのでしょうか?

 あるいは問診票の段階で保護者さんに、それとなく意識(「うちの子もしかしたら」)させる工夫があるのでしょうか?

 

Q2.デンタルを撮るときは、インジケーターを使用していますか?

 

Q3.乳歯のう蝕処置(充填処置)の時は、必ず浸麻を使用していますか?

 

【講師回答】

ご質問ありがとうございます。

Q1.: 

保護者さんへの対応が難しいケースですね。私は医科ではなく歯科医師ですので、診断はできませんが、経験上、発達障害らしきお子さんとは多数遭遇いたします。

問診票に記載がなく、保護者さんの認識がない(もしくは否定しようとされている)ながらも、発達障害を疑うお子さんのケースもあります。

まずは保護者さんにおいて、全く認識がないかを会話で探ります。問診票に小学校名が未記入な場合、ご住所から「○○小学校ですね?」と伺うと「・・・○○支援学校です」と返答がある場合もありますが実際は少ないです(理由は、私が防府支援学校の校医にて、小・中・高の生徒さんとほぼ全員面識があるからです。聴覚障害等に強い近隣市の支援学校に通学される方もいらっしゃいますが、そのような方は、ほぼ問診にもしっかり記入されています。)その他に「○○小学校の3年生?何組?」と聞いて「1組」など、普通小学校の支援学級であることをこちらが把握しているため判明することもあります。

発音に問題があったり、耳鼻咽喉科的に問題があるお子さんは、「発音やコミュニケ―ションについて、何か学校からご指摘があったり、もしくは親御さんが気になることはありませんか?」と探って判明することもあります。私が発音や呼吸が気になりながらも、耳鼻咽喉科受診がない場合は、近隣市に発達に関してもお詳しい耳鼻咽喉科がありますので、そちらの受診をおすすめし、紹介状に発達に関して私が危惧している内容を記載しております。

難しいのは、親御さんが(おそらくコミュニケーション障害や多動に薄々気づいていらっしゃるものの)発達障害を認めたくない、という姿勢を明らかに示していらっしゃる場合です。知能が比較的高いアスペルガー症候群と思われるお子さん(中には不登校のお子さんも)の親御さんがこのパターンです。この場合は受診勧告が事実上困難であり、こちらからはストップしています。

しかし、このケースのようなお子さんにおいてよくありますのは、親御さんが矯正歯科治療を強く希望されて、しかし本人は多動だったり行動に問題があり、医療者として「この子矯正は大丈夫かな。装置をうまく使えない、使っていただけないなどでトラブルが起きそう。」と思う場合です。「う蝕治療と異なり、矯正治療は時間もかかるし多少の痛みもあります。毎回の治療での処置内容や時間も決まっています。装置をつけるお約束もしっかり守り、口腔ケアも必要です。お子さんが手で装置を触るなどあればケガの原因にもなりますし歯並びが治らない原因になります。矯正治療ご希望のお気持ちは察しますが、円滑に矯正治療をすすめるほどのお子さんの理解力や協力状態ではないので、今の状態では、当院では矯正歯科治療をお受けできません」と、発達障害については明言しませんが、当院では矯正歯科治療対応はできないとお断わりしています。親御さんとしては「うちの子はできる子なのになぜ?」と憤慨される方もいらっしゃいますが、それでも「今進めると、医療者としてもお子さんとしてもよい結果は得られません。治療するのは親御さんではなく本人さんです。本人さんの成長を待ってしっかり理解していただけるようになって再度考えましょう。」と冷静にお伝えしています。

 

Q2.:

小学校中学年以上のお子さんではインジケーターを使用します。それまでのお子さんでは、当院で使用しているフィルムサイズとの兼ね合いもあり、インジケーターを入れる(咬む)ことが難しいため、衛生士もしくは歯科医師(当院ではスタッフの安全管理のため、受付以外は全員フィルムバッジを着用しています)がレントゲン室でフィルムを位置づけ保持して撮影しています。

 

Q3.:

当院での、乳歯のCR充填における形成時の浸麻使用率は、6割前後かと思います。

上顎乳前歯唇面の(歯髄に達しない)単純窩洞や、乳臼歯部裂溝でシーラント予定だったものの少し形成が必要だった窩洞、デンタルエックス線写真と視診触診で歯質の固さや深さを探り浸麻なしで5倍速エンジン(この場合、タービンより5倍速の頻度が高いです)を用いて治療する場合に、浸麻を使用していないことが多いです。

形成時に痛みを伴うような深いう蝕でなくとも、歯肉縁下(上顎AA間の隣接や、DE間の隣接など)に齲窩が及ぶ際は、止血目的も兼ねて浸麻します。臼歯部裂溝のスティッキーな深さを予想させるう蝕は、ほぼ全てで浸麻とラバーダムを使用します。




 質問者②

【質問内容】

職種:記載なし

質問内容:

今日の講演、とても勉強になりました。ありがとうございました。

母子分離のタイミングについて教えていただきたいです。

小学2年生女児、定型発達児(グレーゾーンのようにもみうけられます)。TDS法を行った後、治療は上手に受けれるのですが、母子分離ができずいつも母親が一緒に入室します。

衛生士が待合室まで迎えに行き手をつないで一人で入室するよう声掛けをし、母親も「一人でいっておいで」と声掛けしてくれますが、「ママが一緒じゃないと嫌だ」と言うので結局母親も入室します。泣いたり駄々をこねるというわけではありません。母親も甘えられていることに嬉しそうな様子です。

このような場合、治療が上手に受けれられるなら、子どもが自分から「一人で入る」と言い出すまで母子分離しないでいいものか、治療トレーニングとして母子分離を進めていくべきなのか悩んでいます。

先生は「母子分離」についてどのようにしているのか教えていただきたいです。

よろしくお願いします。

 

【講師回答】

ご質問ありがとうございます。

母子分離するしないは、小児歯科業界の中でも医局や勉強会により意見が分かれるところです。

ちなみに、私が在籍していた頃の九州大学小児歯科(外来は健常児多数)では「3歳以上は(絶対に)母子分離」「(3歳以下でも)抑制下歯科治療時は母子分離」であり、例えば5歳児の治療時に母親がそばにいたりすると「待合でお待ちください」と先輩ドクターが促し、その後「3歳以上は母子分離でしょ?」と指導をうけたものでした。鹿児島大学小児歯科(比較的障害児が多い)では、母子同室が基本でしたし、抑制下歯科治療でも母子同室のことも多々ありました。

このように、出身大学や医局の影響を受けることが多いのですが、現在の小児歯科全体の流れとしては母子同室(無理に母子分離をすすめない)が主流と感じています。

しかし、このお子さんに関しては母親も(面目上)「いっておいで」とおっしゃるものの、実際は「母が子離れできない」印象を受けます。トレーニングも上手にできて治療もできるということですが、できれば「母子分離」したほうが、歯科だけでなく様々な場面でこのお子さんはさらに成長できるのではないかな、と思います。ひとつは、例えば「3年生」になったときに「3年生になったから、今日の歯みがき指導は一人でやってみない?」「最初の歯磨きの状態(染め出し直後など)をお母さんに診て頂いた後、どれだけ自分で磨けるかをお母さんに伝えたくない?(歯みがき終わるまで待合で待っていただいて」内緒で自分だけで磨いて、お母さんにびっくりしてもらおうよ?どう?)という提案もありかと思います。

ただ、グレーゾーンにも見受けられるお子さんとのことにて、母子同室もやむを得ないかな、とも思います。

本人の成長のためには「母子分離」したいと思います、一方で、その日の歯科受診上の目的が、治療も終わって歯みがき指導や定期受診ということであれば、親御さんがいらっしゃっても、ほぼ目標時間内に目的が達成される(=歯科医療者側として「成果」がとれる)のであれば、母子分離にはこだわらない、という考え方もありかと思います。

 

ちなみに、このようなタイプのお子さんで、「治療ができません、進みません」ということであれば、回数と重ね信頼関係をある程度構築した上で、「お母さまがいらっしゃると、本人も甘えてしまい、お母さまもそれに応えようとなさるので、歯科治療がつらくなってしまうことがあります。そこでお母さまが涙を拭こうとして本人さんに触ろうとし、お母さまが手を出されると治療器具とあたり口腔外にでると危険ですし、逆に目の前にお母さまがいらっしゃるのに何も手を出さないとなるとお子さんにとってもお母さまにとってもつらい状態です。今日の治療の間は、申し訳ございませんが席を外していただけませんか?その分、私どもは、治療内容・時間およびお子さんとのコミュニケーションに集中し、できるだけ早く処置が終わるよう尽力いたします。どうしても気になるときは、そっとドアを開け(本人の視界に入らない、本人に声掛けしない)様子を診て頂いても構いません。本人さんは泣くかもしれませんが、今日の主題は安全にできるだけ短時間で歯科治療を行うことです。ご協力ください。」といったことをお話しています。

・・・どちらもありの、あいまいな説明ですみません。



質問者③

【質問内容】

職種::歯科医師

質問内容:

本日はありがとうございました。

  1. 様々な患者さんを受け入れるにあたり、小児科などと連携、紹介先が必要とありましたが、先生がこれまでどのようにして紹介先、連携される職種の方とつながってきたか教えていただきたいです。特に栄養士さんや保健師さんなど私見ですが出会えても連携しにくい職種の方と連携していった方法をご教示いただきたいです。
  2. 小児歯科専門医、障害者歯科認定医を取得された時期はいつごろでしょうか。さしつかえなければご教示いただきたいです。島根県は歯科大学がなく、一度医局を離れると資格取得まで道のりが遠くなっています。
  3. お一人の患者さんにたいして何人のスタッフで対応されていますか?また予約の時間枠はどのくらいで組まれていますか?

大学小児歯科におりました。人手をかけて対応する方法は学んできましたが、一般開業医院で成人の患者さんの間を縫って説明やトレーニングの小児対応することに限界を感じました。どのように普段スタッフが動いているのかご教示いただきたいです。

 

【講師回答】

ご質問ありがとうございます。

1.:

私は、受診いただいているお子さんや保護者さんとの会話時間が長く、歯科衛生士が口腔ケアをしている時間や、私が充填形成しながらでも、お子さんとお母さまとずっと会話しています。その中で「ここの小児科の先生とは意見が合いそう」「ここの小児科ではこういう指導をされているんだな」など知識を得ます。そして医科的に気になる症状があった際にその小児科や耳鼻科さんに紹介状を書く、というやりとりを繰り返しました。それにより「ここの小児歯科はこのような視点を持っているんだ」と認知していただき、小児科さんや耳鼻科さんの勉強会でお話させていただく機会を持ちました。その勉強会には多数の医科の先生方(小児科、耳鼻科の一次・二次・三次機関)がいらっしゃったので、「変わった小児歯科医がいるな」ということで広く知っていただくことができました。

栄養士さん、保健師さんは、まず当院に受診されている保護者さん(で栄養士さんや保健師さん)、提携している保育所から始めました。そして、1歳半健診や3歳半健診で伺う市の保健センターの保健師さんとも「こども歯科で離乳食指導や、いす、スプーンの説明などしているんですよ。1歳半健診では食べ方についてどのようなチェックポイントがありますか」と話してみたり、そのようなところから始めています。栄養士さんや保健師さんは、未だに草の根運動的な感じです。他市の保育士さんや保健師さん(身体調和支援の講師の先生など)とは、意見交換はもっと多いですが、市内で同じお子さんを診ることはできていません。未だに手探り状態です。お返事になっておりませんね、申し訳ございません。

 

2.:

小児歯科専門医は大学医局に丸5年在籍して取得するのが最短ですので、私は6年目に入ったところで受験取得しました(当時は認定医、以後は専門医)。九州大学から国内留学で4年目秋から鹿児島大学に異動しましたが、九州大学医局には計6年間籍があり、W在籍状態でしたので、九州大学の患者さんの資料(研修医ケースレポートや学会発表症例のその後を追い3年以上経過症例)で受験しました。現在は小児歯科研修施設で2年在籍があれば、残りは多少時間がかかっても単位習得可と聞いております。単位取得、試験、症例がきっちりしていれば資格取得可能と思います。私の周りで専門医試験を失敗された方に共通するのは、症例提示でひっかかるケースです。

3年間診ていない(引継ぎ症例で自分は1年しか診ていない)、小児歯科学会なのに(初診は低年齢でもそのドクターが引きついだときは20歳など)成人症例を提示している、治療方針にブレがあり質疑応答ができない、全身麻酔下歯科治療症例で主治医として治療した症例だが計3年間経過していない、初診時資料が足りない(口腔内写真やエックス線写真)・・・このような内容でひっかかっています。

組織を短期間で異動すると「症例を3年間診た」の縛りで症例をまとめにくい、また、3年以上在籍していてもその組織を離れてしまうと個人情報保護の点から再度アクセスしにくい、ということがあります。しかし、学会発表ケースや症例検討会で提示したケースがあり、かつ3年在籍している場合は、その後のことも考慮して、予めケースレポートとしてまとめておかれることをお勧めいたします。

障害者歯科認定医は苦労しました。障害者学会には卒後5年目に入会しましたが、認定医は卒後12年目に取得しました。

九州大学小児歯科も鹿児島大学小児歯科も、認定医制度ができた当時(暫定期間内)に認定医取得された先生は複数いらっしゃったのに、どちらの医局も研修機関認定を取っていませんでした。そのため、暫定期間終了後はどちらの大学でも新規で認定医がとれない事態になってしまいました。まず鹿児島大学を認定機関とするために動きました。宮崎歯科福祉センターが(規則の一部改正により)認定施設になれるとの話を聞き、宮崎歯科福祉センター経由(非常勤)で取得できないかと考えました。理論的には可能だったのですが・・・(鹿児島大学のボスに「鹿児島大学も認定施設にして認定医取得するべき。」と叱られまして)鹿児島大学の施設認定を取得するのに半年~1年かかりました。  

そしてようやく施設認定がとれた時に聖マリア病院へ異動が決まり、異動直前に認定医書類を揃えて投函し、ケースレポートもほぼ完成状態に作り上げておきました。聖マリア病院在籍時も研修登録医として鹿児島大学に籍がありましたし、ボスは鹿児島大学が障害者歯科認定施設取得後、認定医1人目早く出すことにこだわっていらっしゃいましたので、ケースレポートも問題ありませんでした。

山口県歯科医師会口腔保健センターも島根県歯科医師会口腔保健センターも、その後(ここ数年で)施設認定を取得されたものと認識しております。山口県口腔保健センターの施設認定取得に際しては、鹿児島大学の施設認定手続きに関わったことから、お教えできる範囲のノウハウを提供しました。施設認定後、山口県口腔保健センターは2年連続で認定医が出ております(認定医取得に関する書類作成のポイントなど、何名かサポートいたしました)。必要条件は、3年間の学会および研修施設歴(非常勤でも可)、症例数とケースレポート、筆記試験です。

筆記試験は、小児歯科学会より障害者歯科学会の方が数段難しく、筆記試験終了後に「落ちたな・・・。」と暗い気持ちで東京から戻ったことを記憶しております。ケースレポートは、私の感覚では障害者歯科学会のほうが簡潔だと思います(量も内容もコンパクト)、山口県からこの2年で受験された先生方を見ても、ハードルは低いように感じられます。

 

3.:

当院の診療(治療)の基本は小児歯科の基本と同じく、「4hand dentistry」で2人体制です。

特に浸麻を伴う、ラバーダムを使用する治療、呼吸時状態が気になるお子さんの対応時などは2人、もしくは(浸麻時など)ポイント的に3名となるような場合もあります。

ドクターが口腔内診察後、シーラントや実地や口腔筋機能訓練や食生活指導を行う際、定型発達児でとても上手なお子さん(3歳以上)に関しては衛生士1人のみで対応します。多少動いたり声がでるものの慣れているお子さんのシーラントや実地は、2名(衛生士1名と助手1名、場合によっては歯科医師)、浸麻やラバーダムを行う治療時は歯科医師1名ともう1名(衛生士もしくは助手)。

障害をお持ちのお子さん、特に呼吸や嘔吐反射、多動があるお子さんにはそれぞれ+1人で対応します。体格も体動も大きなお子さんの場合は、我々3~4人と保護者さんということもあります。ただしその場合同じ時間帯には、予約をいれない、もしくは1~2人で対応できる定期健診等の予約に限っています。

時間は基本30分枠です。初診ではお話する内容が多いので、実際は40分程度となることが多いです。

一般歯科をしながら小児歯科となると大変ですね。

理解者・仲間を増やす(衛生士)こと、省力化を図ることができたらよいと思いますがいかがでしょうか。

衛生士さんは、小さなお子さんがいらっしゃる衛生士さんがよいかと思います。その方のお子さんの自宅での仕上げ磨きするときのポイントをお教えし、同じ年齢のお子さんが受診されたら「同じ内容をぜひ説明してください」と振ってみてはいかがでしょうか。次に間食やジュースなどについて説明し、それも同じ内容を色々なお子さんに説明していただく。そうするとその衛生士さんの知識が増え、ご自分のお子さんのためにもなります。

次は「省力化」です。講演の中で「説明ツールを作る」で触れました。ラバーダム・笑気・サホライドなど、小児歯科で独特の処置内容を1枚の用紙にまとめ、それらをファイルに入れて必要なときに提示する方法です。もしくは、そのファイルを待合室において「ファイルの浸麻後の注意の項をお読みください」もありかと思います。

う蝕リスク説明も、ジュースなどのショ糖量・酸性度の説明用紙を作り、治療中に話して見ていただく。浸麻して治療した後の咬傷の注意も(講演内で少し触れましたが)説明資料をお見せながら説明すると理解していただきやすいです。また、つきそいの方が(お母さまでなく)お父様などの場合でも、説明資料をスマホで写真撮影していただいくのもお母さまに伝える方法になります。サホライドや浸麻後の咬傷注意は日常的に数が多いので、A5で簡単な配布資料を作り、それをお渡しするのもよいかと思います。